東北の環境パートナーシップを応援します。

お知らせ

お知らせ

【脱炭素ポータル】脱炭素社会の実現に向けた温室効果ガス排出量の算定(見える化)(1/2)

2024.07.19 09:05

脱炭素社会を実現するためには、個々の企業の取組だけではなく、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出削減を進めていく必要があります。ここでは、排出削減に向けた取組の足掛かりとなるサプライチェーン排出量及びカーボンフットプリント(CFP)の算定の概要をご紹介します。
 
目次
・温室効果ガス排出量の算定(見える化)の動向
・サプライチェーン排出量の算定
・サプライチェーン排出量ってなに?
・サプライチェーン排出量を算定すると、どんなことに活用できるの?
・どうやってサプライチェーン排出量を算定するの?
・取引先を巻き込んだサプライチェーン排出量算定を行うには?
・製品単位の排出量(カーボンフットプリント)算定

温室効果ガス排出量の算定(見える化)の動向
地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法)に基づき、温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)は、自らの温室効果ガスの排出量を算定して、国に報告することが義務付けられています。
この温室効果ガス算定・報告・公表制度の開始以降、企業による自社の排出量の把握が定着しています。同時に、自社の排出削減に対して企業が責任を負う、という考え方も一般的になろうとしています。
 
関連トピックス
・地球温暖化対策推進法について
・温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法等が2024年度から変わります
・「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム」(EEGS)が利用開始となりました
 
一方、脱炭素社会を実現するためには、個々の企業の取組だけではなく、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出削減を進めていく必要があります。近年、企業の排出責任はサプライチェーン全体へと拡大しており、それに伴って、サプライチェーン排出量の見える化が求められています。
 
また、企業が排出削減と成長を両立させていくためには、顧客や消費者がグリーンな製品やサービスを選択するような社会を創り出していく必要があります。その基盤として製品・サービス単位の温室効果ガス排出量であるカーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)の算定・表示が求められています。
 
サプライチェーン排出量算定 -サプライチェーン排出量ってなに?-
温室効果ガスは、化石燃料の燃焼や工業プロセスにおける化学反応、あるいは温室効果ガスの使用・漏洩などに伴って、大気中に排出されます。サプライチェーン排出量は、自社内における直接的な排出だけでなく、自社事業に伴う間接的な排出も対象として、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指します。
つまり、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のことです。
 
サプライチェーン排出量 = Scope1排出量 + Scope2排出量 + Scope3排出量
・Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
・Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
・Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
※GHGプロトコルの Scope3 基準では、Scope3 を 15 のカテゴリに分類しています。
引用:環境省「グリーン バリューチェーン プラットフォーム」
 
サプライチェーン排出量を算定すると、どんなことに活用できるの?
 
・削減対象の特定/削減意識の啓発
企業ごと、事業内容ごとに排出状況は様々なので、削減のために必要な対策も異なります。
サプライチェーン排出量の全体像(総排出量、排出源ごとの排出割合)を把握することで、特に排出が多い領域(ホットスポット)などの優先的に削減すべき対象を特定することができます。さらに、その特徴から長期的な環境負荷削減戦略や事業戦略策定のヒントを導き出すこともできます。
 
・他事業者との連携による削減
温暖化の防止に向けて排出量の一層の削減が求められる一方で、自社の排出量の削減には限界があります。一方で、サプライチェーン排出量の算定により、サプライチェーン上の他事業者と環境活動における連携が強化され、環境負荷低減施策の選択肢が増えることで、自社だけでは難しかった削減が可能になります。また、CSR活動の一環としてサプライチェーン排出量算定を要請する企業もあり、新規顧客開拓へも繋がります。
 
・CSR情報開示
企業の情報開示の一環として、サプライチェーン排出量をCSR報告書、WEBサイトなどに掲載することで、環境対応企業としての企業価値を明確に示すことができます。サプライチェーン排出量の把握・管理は一つの正式な評価基準として国内外で注目を集めており、グローバルにおいても、投資家等のステークホルダーへの社会的信頼性向上に繋がり、ビジネスチャンスの拡大が期待されます。
引用:環境省「サプライチェーン排出量 概要資料」
 
実際に、サプライチェーン排出量の開示を求める動きが拡大しており、サプライチェーン排出量の算定・削減は社会的に求められています。
 
サステナビリティに関する企業報告の国際基準であるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)では、サプライチェーン排出量を開示対象として定めています。日本版ISSBであるSSBJの草案においてもサプライチェーン排出量が開示対象となっており、このままSSBJが公表されれば、早くて2027年3月期から一部企業でサプライチェーン排出量開示が義務化される予定です。
また、現在多くの企業で採用されており、パリ協定が目指す1.5℃目標の水準と整合した削減目標の設定を求める SBT(Science Based Targets/科学的に整合性のある目標)においても、サプライチェーン排出量の削減が求められています。
ESG投資の呼び込みなど、資金調達の上でも対応が必要です。
 
どうやってサプライチェーン排出量を算定するの?
サプライチェーン排出量算定は大きく次の4つのステップに分けることができます。
 
・STEP 0:サプライチェーン排出量算定方法の理解
サプライチェーン排出量の算定をはじめる前に、サプライチェーン排出量の算定ポイントや各カテゴリの考え方、削減対策、企業の取組状況などを確認し、サプライチェーン排出量算定方法を理解します。
 
・STEP 1:算定目標の設定
算定のはじめに、自社のサプライチェーン排出量の規模を把握し、サプライチェーンにおいて削減すべき対象を特定すること等、算定の目的を設定します。目的に応じて算定の範囲や精度が決まるため、最初に目的を設定することが重要です。
 
・STEP 2:算定対象範囲の確認
次に、算定対象範囲を確認します。サプライチェーン排出量の算定の際には、グループ単位を自社ととらえて算定する必要があります。
 
・STEP 3:Scope3活動の各カテゴリへの分類
さらに、サプライチェーンにおける各活動を、漏れなくカテゴリ1~15に分類します。
 
サプライチェーン排出量の算定では原則として、全てのカテゴリ、全ての活動について排出量を算定することが推奨されます。しかし、一定の基準を満たした場合に、カテゴリそのものの除外やカテゴリ内で算定対象を限定することも認められています。算定目的に応じて算定の範囲を特定することが重要です。
 
カテゴリそのものの除外やカテゴリ内で算定対象を限定する例として、該当する活動がないもの、排出量が小さく、サプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの、排出量の算定に必要なデータの収集等が困難なもの、などがあります。
 
・STEP 4:各カテゴリの算定
最後に各カテゴリについて実際に算定を行います。
 
・STEP 4-1: 算定の目的を考慮し、算定方法を決定します。
・STEP 4-2: データの収集項目を整理し、データを収集します。
・STEP 4-3: 収集したデータ基に、活動量と排出原単位から排出量を算定します。
 
取引先を巻き込んだサプライチェーン排出量算定を行うには?
企業によっては Scope1、2 に比べて Scope3 の排出量の占める割合が圧倒的に多い場合も多く、自社の広大なサプライチェーンに対して、個社のみでデータ連携を行い算定・削減を行うことはコスト・時間的にも難しいでしょう。
環境省では、取引先を巻き込んだかたちでのサプライチェーン及びバリューチェーンでの排出量削減を目指す事業者向けに、取引先とのエンゲージメント取組を通じて段階的にバリューチェーンの脱炭素化を進め、さらにその成果を発信して業界全体への取組へと発展させるまでの実践ガイドを公表しています。
 
 

 
製品単位の排出量(カーボンフットプリント)算定
 
カーボンフットプリントってなに?
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)とは、製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに⾄るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量を CO2 排出量に換算し、製品に表⽰された数値もしくはそれを表⽰する仕組みを指します。
ネットゼロ社会を実現するためには、個々の企業の取組だけではなく、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減を進めていくことが必要です。そのためには、脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創り出していくことが重要です。そのような市場を実現するための基盤として製品・サービス単位の温室効果ガス排出量であるCFPの算定・表示が進められています。
 
カーボンフットプリントを算定すると、どんなことに活用できるの?
近年の気候変動問題への関⼼の⾼まりを踏まえ、企業を取り巻く多様なステークホルダーが、様々な⽬的から CFPの算定・表示を企業に要請し始めており、CFPは企業の競争⼒を左右するものになりつつあります。
 
① CFPを活⽤した公共調達
日本の公共機関では、公的機関が率先して環境負荷の低い製品・サービスを調達することを推進するグリーン購入法に基づき、CFP情報が開示された製品の購入が推奨されています。
また、欧⽶でも、公共調達において、CFPに取り組む企業に対して具体的なメリットがあるように基準が作られています。例えば、調達基準においてLCAの実施や環境製品宣⾔(EPD:Environmental Product Declarations)認証等を義務化する例や、LCAの実施やEPD認証によって加点されるシステムを調達基準に活⽤する例があります。
 
② CFPを活⽤した規制
欧州委員会では、排出量が多い業界における排出量削減を促進するため、また、温室効果ガス削減規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸⼊増加などが懸念されることなどから、温室効果ガス削減⽬標達成のための取組の⼀環として、炭素国境調整措置(CBAM)やデジタルプロダクトパスポートなどのCFPに関する規制の制定を進めています。
 
③ ⾦融市場における企業のサプライチェーン排出量の把握・開⽰要求
今後、気候変動リスクの開⽰により企業の優劣が鮮明になれば、投資家による選別が進みやすくなり、ESGマネーの争奪よる企業の競い合いで、温室効果ガス削減も加速すると予想されます。これを受けて⾦融市場では排出量関連の開⽰を義務付ける、⼜は推奨する動きが広まっており、Scope1、2に加えて、製品単位排出量の情報も必要となるScope3の開⽰も求める動きが広まっています。
 
④ 顧客のグリーン調達
先進的な企業では、調達先の選定⽅針にCFPやEPD認証を活⽤しており、サプライヤー側がCFP算定・削減開⽰に取り組む動機付けになっています。
 
⑤ 顧客のサプライヤエンゲージメント(CFP開⽰/排出削減要請)
近年ではScope3を含むサプライチェーン全体の排出量算定・削減が求められ、サプライチェーン全体での協働が重視されています。Scope3の排出把握においては、サプライヤーから調達している製品・サービスのCFPが重要になるため、サプライヤーにCFPを依頼し、削減を働きかける例が増えています。その他、先進企業においては、サプライヤーに対してCFPの開⽰や排出削減を要請するといった動きに加え、CFP削減に向けた⽀援をする等の動きも⼀部でみられます。
 
⑥ 消費者へ向けた脱炭素に関する企業ブランディング、製品マーケティング
欧⽶を中⼼に、国や企業のコンソーシアム、個々の企業といったそれぞれの階層で、各製品・サービスのCFPを消費者に訴求するための取組が活発になっています。コンソーシアムは業種ごとの取組もある⼀⽅で、業種関係なく、⼩売りや様々な分野の消費財メーカーが協⼒して、環境負荷の算出やその表⽰のルールをつくる取組を進めている事例もあります。
 
どうやってカーボンフットプリントを算定するの?
CFPの算定は次のステップに大きく分けることができます。
 
・STEP 0:CFP算定の原則の理解
CFPの算定をはじめる前に、CFPの概要や、基本的な考え方を理解します。
 
・STEP 1:算定⽅針の検討
算定の Why(目的)/What(対象製品・ライフサイクルステージ)/How(参照規格・基本方針)の大枠を決めます。算定の目的によりCFPで満たす要件が異なるため、まずは、Why(目的)を明確化します。その目的に基づき、どの程度の客観性や正確性を狙ったCFP算定とするか判断し、What(対象製品・ライフサイクルステージ)/How(方法)を検討します。
 
・STEP 2:算定範囲の設定
まずは、算定対象範囲を明確にします(バウンダリーの設定)。算定対象とする各プロセスを「ライフサイクルフロー図」に落とし込むことで算定の対象範囲を明確化するとともに、GHG排出源を網羅的に洗い出すことができます。なお、算定対象全てを算定するのが理想ですが、CFPへの影響が小さく、算定が難しいプロセスは算定対象外とすることができます(カットオフ基準の検討)。
 
・STEP 3:CFPの算定
CFP算定方法には、GHG排出量を直接計測する方法と、排出を伴う活動の「活動量(マテリアルやエネルギーの投入量)」×「排出係数(単位活動量あたりのGHG排出量)」から計算する2パターンがあります。具体的な算定ルールを定めたら、算定手順書を作成します。算定手順書に基づき、算定用ツールを用いてCFP計算を行います。
 
・STEP 4:検証・報告
CFPの信頼性を担保するため、内部検証もしくは第三者検証を行い、算定が適切に実施されたか否かを検討します。CFP算定結果は、CFP算定報告書に記載し、公開します。公開にあたっては、データ、手法、仮定・解釈が読者にわかるよう透明性を担保し十分詳細に説明する必要があります。
 
カーボンフットプリント算定結果を効果的な表示・開示、排出量削減につなげるためには?
CFPの実施に当たっては、算定はもちろん、その結果を社外に表示・開示し、取組をアピールしたり、削減施策につなげたりすることも重要です。
 
グリーン調達が盛んになりつつあるいま、算定結果を製品に表示してブランディング・マーケティングに活用することは売上増加の機会にもなり得ます。また、CFP算定結果により、大きな排出源が定量化されることで、効率的なサプライチェーン排出量削減対策の検討が可能になり、包括的な排出量削減施策検討・推進を行うことができます。
 
経済産業省、環境省では、CFPへの取り組みを実施する事業者向けに、CFPの算定方法、表示・開示方法、排出削減の検討方法をまとめたカーボンフットプリントガイドラインと(別冊)CFP実践ガイドを公表しています。
 


この記事に関してのお問い合わせ先
環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室
 
→詳細はこちらからご覧ください(外部リンク)