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【脱炭素ポータル】【有識者に聞く】ZEBをはじめとする省エネ建築物の必要性とそのメリット

2024.03.21 09:05

脱炭素社会の実現に向け、オフィスビルなどの非住宅建築物においても脱炭素化が求められています。
今回は建築物の脱炭素化の重要性や、省エネ建築物がもたらす快適性や生産性向上などのメリットについて、早稲田大学の田辺新一教授に解説していただきました。
 
田辺 新一(たなべ しんいち)
早稲田大学創造理工学部建築学科教授。スマート社会技術融合研究機構(ACROSS) 機構長。
第57代日本建築学会会長(2021~2023年)。経済産業省資源エネルギー庁基本政策分科会委員、同省エネルギー小委員会委員長などを歴任。
 
関連書籍
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ゼロ・エネルギーハウス: 新しい環境住宅のデザイン 萌文社 (2017)
なぜ建築物の脱炭素化が求められているの?

建築物の脱炭素化が求められる背景
まず初めに、なぜ今、建築物の脱炭素化が求められているかについて教えてください。

田辺
日本のCO2排出量の中で、住宅・建築物からの排出量の占める割合は全体の約3分の1もあります。
そのうち、オフィスビルなどの非住宅建築物が含まれる「業務その他部門」の排出量は全体の約18%を占めています。
これは、自動車の電動化などカーボンニュートラル達成のために注目されている運輸部門と同程度であり、住宅・建築物、特に非住宅建築物からの排出量を削減していくことも同様に重要と言えます。
さらに、都市部では非住宅建築物からのCO2排出量の占める割合が高くなります。
例えば、東京都ではCO2排出量の約7割が住宅・建築物からの排出であり、そのうち非住宅建築物は約41%にものぼります。
都市部におけるカーボンニュートラル達成に当たっては、建物を変えていく必要があるといえるでしょう。
また、製品サイクルが短いテレビや冷蔵庫のような電化製品などは入れ替わりが早いですが、建築物は一度建ててしまうと50~60年という長い期間残るものです。
つまり、脱炭素に資さない省エネでない建物を建ててしまうと、将来にわたってCO2を出し続けてしまうことになりますので、建築物の脱炭素こそ今取り組む必要があります。
その一方で、年間で非住宅建築物の建て替えや新築が行われるのは総面積の1~2%程度で、全てが置き換わるためには50年以上かかる計算になります。
このため、新築や建て替えだけでなく、既存の建物をどのように省エネ化していくかも非常に重要です。
 
ZEB(ゼブ)ってなに?
ZEBの概要
「ZEB」と呼ばれる省エネ建築物が徐々に増えていますが、どのような建物なのでしょうか。

田辺
ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
これまで、省エネ建築物は暗い・暑い・寒いなど「我慢」のイメージを持たれることがありました。
そのようなイメージを払しょくする意味でも、ZEBの定義が作られています。
 
ZEBをはじめとする省エネ建築物のメリットは?
省エネや光熱費以外のメリットを考える重要性
暗い・暑い・寒いなど「我慢」のイメージを持たれることもあった省エネ建築物ですが、ZEBでは快適な室内環境を実現できるというお話でした。その重要性について教えてください。

田辺
ZEBの定義には室内環境を担保するという内容が含まれます。企業のコストを考えると、光熱費を 1 としたときのビルの賃料は 10、ビルで働いている人の人件費は 100 になると言われています。
省エネをするということは 1 を減らしていくということですが、1 を減らすために無理をすると人件費の 100 が影響を受け、従業員が疲れて働けなくなったり生産性が下がったりしてしまいます。
このため、快適で健康的に働くことができる環境を提供することが重要であり、ZEBはそれを実現できます。
また、人口減少という社会問題を抱える中で、効率良く働くためにはどのような環境が求められるかを考える必要があります。室内を良好な環境にすることが重要で、働く人の快適性や健康性が高くなるような適切なレベルに保つことが重要です。
そのためには、これまでの我慢の省エネというイメージを変えることが必要だと考えています。
「エネルギー効率」という、同じ働きの時にエネルギーがどれだけか必要かという考え方のように、生み出されるものも意識していくことが必要です。
このようなエネルギーやCO2以外のメリットはNEB(Non Energy Benefit)と総称されます。快適性や健康、知的生産性の向上以外にも、不動産価値の向上や事業継続性の向上など、多くのメリットが存在しています。
 
ZEBが提供する快適な室内環境
具体的にZEBはどのように快適な室内環境を実現するのでしょうか。

田辺
例えば、外壁や屋根、床、窓ガラスなどの建物の外皮の断熱などをすると、窓際にいる時に暑い、寒いということが減って快適になります。また、照明については、日本のオフィスは明るすぎる傾向にありますが、全体の明るさを下げつつ手元の照明(タスク照明)を併用することで、個人に最適化された明るさを実現しつつ、省エネをすることができます。そのほかにも、自然換気や自然採光により、冷暖房がない時期でも風が入ってくるなど自然を感じることもできるため、自然が楽しめる建築でもあります。
優先順位としては、設備機器の前に、まずは建物自体の性能を上げることが重要だと考えています。
このように、エネルギー消費が少なくても快適性は維持できます。実際に、従来の半分以下しかエネルギーを使っていないビルが利用者の快適性や健康性につながっている事例も多くあります。
 
ステークホルダーごとに期待されるメリット:①ビルオーナー
では、具体的にはどのようなメリットを生み出すのでしょうか。まず、ビルオーナーのメリットについて教えてください。

田辺
国内ではZEBはまだ主流とは言えません。その原因の一つとして、建設費が上がってしまうことがあります。例えば、ZEB Readyにするためには 5~10% 費用が上がると言われています。
しかし、建築物省エネ法で2030年までの省エネ化の道筋は既に示されています。2024年4月以降は、2,000m2を超える大規模な非住宅建築物は、確認申請時の適合が工場等は BEI*=0.75、オフィス・学校・ホテル・百貨店等は BEI=0.8、病院・飲食店・集会所等は BEI=0.85 より省エネでなければ建てられなくなります。遅くとも2030年度にはオフィスビル等は BEI=0.6、病院や飲食店等は BEI=0.7 というのが最低レベルになる見込みです。
このため、今の段階では省エネ適合していても、例えば BEI=0.8 のビルを建てると、2030年には不良資産化してしまう可能性すらあります。
耐震性能を満たしていない建物や、火災に対して弱い建物はオーナーにとって問題になります。
省エネ性能については、今後規制が強化されることが予定されているため、基準に満たない建物を建てるというのは、耐震性能・防火性能を満たさない建物を建てることと同様であるため、長い目で見ると、ZEBをはじめとする省エネ建築物を建てた方が将来のリスクを抑えられるでしょう。
ヨーロッパでは EPC(Energy Performance Certificate、エネルギー性能証明書)という建物の省エネ性能をランクで表す制度ができており、不動産売買や賃貸にあたって示す必要があります。
また、一定の基準を上回るもの以外は賃貸・売買できないようにする動きも見られます。特に、貸し手が多いときには、省エネラベルの効果があり、ランクが高いほど早く成約することや、借りたい人が多くなる効果があると言われています。
耐震性能や防火性能などと同様に、環境性能は建物を選ぶ際に考慮する性能の一つになりつつあります。
 
ステークホルダーごとに期待されるメリット:②テナント
テナントにとってのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

田辺
ZEBでは快適性や知的生産性が向上することが明らかになっています。また、自然に階段を使って移動をするようになれば、健康増進にも良い影響があります。ほかにも、消費エネルギーが少なく、事業継続性の向上に向けた対策としても効果的です。
 
ステークホルダーごとに期待されるメリット:③自治体
自治体にとってのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
田辺
太陽光パネルを乗せることにより、災害時にも電気を利用できるため、避難場所として使えるレジリエントな建物ができます。
また、自治体の職員も寒さ・暑さを我慢していたところから、健康的に、快適に働けるようになります。
また、ZEBは環境教育の面でも優れているため、地域の方が使う建物がZEBであることは重要です。
 
 
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