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【経済産業省:METI Journal】ふぞろいの果物たち、ジュースに搾り“新しい命”吹き込む

2023.08.09 09:05

山形県は全国有数の「フルーツ王国」だ。農林水産省が昨年12月に公表した農業産出額のランキングを見てみると、サクランボ、西洋ナシは全国1位、スイカ3位、ブドウ、リンゴ、スモモ4位、メロン5位、桃6位と人気の果物が軒並み上位に名前を連ねている。
しかし、これらの果物がすべて、そのまま食卓にならぶわけではない。山形食品は創業以来、傷や色むらなどの理由で生食用として出荷できなかった果物を「おいしいジュース」に加工し、新しい命を吹き込んできた。
新鮮で安心・安全な食を求める消費者と真心込めて作物を育てている生産者。双方に寄り添ってきた老舗企業の哲学を探った。
西洋ナシの加工工場として出発。オリジナル商品も30品目
「色や形が悪いということで生食用に出せないものは、山形県の場合、収穫量全体の10%から15%くらいだと思います。皮をむけば問題なくたべることが出来るにもかかわらずです。それを搾っておいしいジュースとして商品化するのが私たちの使命です」
髙橋徹社長(63)は、自社の使命についてこう語る。
山形食品は1932年(昭和7)、農業団体の西洋ナシ加工工場として発足、今年で91年目を迎えた。1974年(昭和49)には南陽工場(現本社)で、自社ブランド「サン&リブ」や大手飲料メーカーの受託製造を本格化。現在、オリジナル商品と大手飲料メーカーの受託製造を合わせて年間390万ケースを出荷している。オリジナル商品は、ストレート果汁100%ジュースの「山形代表」やサイダー、ジェラートなど30品目に上る。
社長は代々、全農から迎えてきたが、現在の髙橋社長は営業畑一筋でやってきた初のプロパー社長だ。
会社の使命、ベトナム人バイヤーの「あの一言」で確信
髙橋社長には、自らのジュース作りを通して山形県産の果物をアピールし、農家をサポートすることができると、確信する出来事があった。
10年ほど前、日系の大手チェーンストアで「山形代表」をプロモーションするため、髙橋社長はベトナムを訪れた。ベトナムはリンゴ、和ナシなど一部を除いて日本からの果物輸入を禁じている。
そんな状況の中、現地で引き合わされたベトナム人バイヤーに「山形代表」を飲んでもらうと、バイヤーはその味を評価してくれた上で、こう続けたという。
「このジュースを飲めば、輸入解禁された時には、ぜひとも生で食べてみたいと思うでしょう」
髙橋社長は振り返る。「私も愛媛のジュースメーカーを訪れて、試飲させてもらった際に『これは生で食べてみたいな』と同じことを思いました。『山形代表』を飲んで、山形のラ・フランスや桃を食べてみたいと思ってもらえるなら、これは山形県産果物をアピールし、農家のお手伝いをすることができる。これまで漠然と意識していたことが、具体的に見えた瞬間でした」
「2024年問題」きっかけに、新工場建設に踏み切る
山形食品にとって近年で最も大きなトピックといえば、ペットボトルの成形から果汁充填(じゅうてん)まで無菌状態で一貫して行う「アセプティック充填システム」を導入した新工場が、2022年に稼働を開始したことだろう。同タイプの工場は、東北ではもう1か所、大手飲料メーカーのものがあるが、OEM(相手先ブランドによる生産)に対応できる工場は初めてとなる。
新工場建設には、「2024年問題」が大きく関わっている。トラック運転手などの年間時間外労働時間の上限が、2024年1月から大幅に制限されるため、輸送能力の不足が懸念されている問題だ。
大手飲料メーカーはこれまで、東北地方で販売するペットボトル飲料について、大部分を関東など他の地方で製造し、トラックで輸送してきた。
2024年以降はトラック輸送に頼れなくなるのではないか。そんな懸念を抱いた大手飲料メーカーからの後押しもあり、山形食品は新工場建設に踏み切った。髙橋社長は「安心・安全な環境でより大量の製品を製造できます。現在、大手飲料メーカー3社の商品を請け負っており、年間出荷量735万ケースが目標です」と話す。